回想録 山ぐるみの開発輸入を着想

2019年の3月。
初めて山ぐるみを食べてから10年経過していた。

杭州にある臨安の特産物専門店で久しぶりに山ぐるみを食べた。
それまでにも山ぐるみは何度か口にしたことはあったが、やはり晩秋から冬にかけての山ぐるみは鮮度が高く風味が好い。

日本ではまだ馴染がないこの山ぐるみは、常々おもしろい食材だと思っていた。
売れない理由は、このテイスト。
日本人には少々しょっぱくて甘いコーティングが施されている。
味が濃いのだ。
このままでは売れない。
ならば日本人が好む山ぐるみをつくってみよう。
美味しければ食べてもらえる。

その足で何件かの超市(スーパーマーケット)を廻り、目についた山ぐるみの商品を買い込んだ。
まずは日本での反応をみてみることにした。

山ぐるみとの出会い

初めて山ぐるみ(山胡桃)を食べたのは、杭州に移り住んで二回目の春節である。その年の大晦日に大雪が降り、めずらしくひと気の少ない西湖の美しい雪景色が印象的だった。

初二(正月二日目)の朝、CCTVを観ながらまどろんでいると、中国の友人から電話が入った。ひとりで過ごす旧正月は味気ないからと、その友人宅の夕食に招待して頂いたのだ。ちょうど人恋しくなっていたので非常に嬉しかったことを覚えている。

夕食の準備ができるまで、友人や親戚の方々とお茶を飲みながら談笑する。人数は概ね4、5人がリビングルームに集っていた。しばらくすると私の鼻先に甘くて香ばしい匂いがふんわり漂った。発生源は隣のおばちゃんが手にする小袋のお菓子に違いないと思い、つたない中国語でコレは何かと訊いてみた。すると、皆が一斉に山胡桃だよ、食べたことないの?日本にもあるだろう、、、のようなことを皆でワイワイわははは話しながら私の掌にどさっと数袋置いてくれた。こんなとき中国人って気前がよくて優しいな、と思う。

その山胡桃はコーヒー豆のような形と色で、大きさは2センチ前後。小ぶりで硬い。パッケージに「臨安山胡桃」と印字されている。ふーん、クルミの一種か。第一印象は冴えないナッツ。しかし、ひと口食べて驚いた。かなり旨い、のである。匂いよりも美味しい。濃厚なうまみと香ばしさ。バターのような芳醇な風味。日本で胡桃として食されているウォールナッツよりもピーカンナッツに近く、 密度が高く歯ごたえがある。サクサクした食感が心地よい。山胡桃をコリコリ頬張りながら、これは近いうちに誰かが日本に輸出するだろうな、とぼんやり考えていた。

中国で出会った美味しいモノ、忘れえぬ料理

杭州に住み始めた2008年の夏は鳥インフルエンザへの警戒心が強く、極力外食を避けていた。しかし、3か月が過ぎると自炊に飽き、ローカルグルメへの探求心が抑えきれず、早朝から屋台や食堂で現地の住民と相席しながらワンタンをすするようになっていた。中国に住み慣れた3か月ころにひどい食あたりになる、とよく聞いた話ではあるが、幸いにも私はその洗礼を受けたことはない。

そんな頃に出会った初めての美味しい食べモノが豆腐脑(豆腐脳)である。
寒い初冬の朝。いつも通学途中に立ち寄る屋台が人だかりだったので、その日は、屋台の向かいにある食堂に入ることにした。濛々と湯気が立ち上る寸胴鍋を指差し一杯注文すると「咸的甜的?(しょっぱいのと甘いのどっち?)」と訊かれた。お粥だと思い込んでいた筆者は、へぇ甘いお粥なんてあるんだ、、、白粥でいいんだけど…と思いながら、しょっぱい方を頼んだ。すると手際よくお椀に干エビやザーサイ、ネギ、醤油などを放り込み、その上に白い液状のものを豪快に盛り付けてくれた。店内は薄暗かったが、テーブルに置かれたお椀を見てようやく気付いた。これは豆腐だと。完全に出来ていないおぼろ豆腐、豆乳が少し固まった半固体といった方が分かりやすいかもしれない。

お粥の口になっていたものの、ひと口食べるとビックリした。日本でも食べ慣れていた豆腐であるが、これまでにない濃厚な豆腐の風味とつるんとした滑らかな口当たりに思わず目を閉じてゆっくり咀嚼した。大豆の優しい甘みと暖かい豆乳が冷えた体に染み渡り、熱々の豆乳と中国醤油が醸し出す絶妙なコクがじんわり残る。

こんな美味しいモノがあるんだ・・・
以降、中国の美味しいモノ感度が高くなり、現在進行中のプロジェクトである山胡桃を初めて口にしたのもこの冬の春節である。